Monday, September 20, 2010

ペニシリン(その16):構造決定,エルンスト・チェイン



写真:チェイン博士(1906ー1979)

最初の10例の患者に投与されたペニシリンの純度は不十分(精製度は
50-70%)ぐらいでした。その後,チェイン博士はその精製分離,化学
組成の分析,構造決定へと研究を進めます。同時にイギリスの 
the Imperial College of Science, Burroughs Wellcome Ltd., Imperial Chemical
Industries, Glaxoなども研究に参入します。

さらにアメリカではペニシリンの大量生産の為に国家をあげて取り組み,
ペニシリンの構造決定には200名以上の化学者が参加します。
特にメルク社の研究所は豊富な資金,資材と人で研究に成果をあげます。

一方のオックスフォード大学では,患者の臨床治験の続行と同時にチェ
イン博士らは構造決定の研究も行い,1943年10月には最初にペニシリン
の構造式の提示をします。

1943年には英国とアメリカの両国政府はペニシリンの構造に関する論文
の公表を禁止する処置を行います。その後1年あまり両国の研究者は
お互いの研究進展状況がわからなくなります。

最終的にはペニシリンは4種類あることがわかりました。イギリスでは
その発見順にペニシリンI, II, III, IV と命名。 アメリカでは F ,G, X, K
と命名します。

ナトリウム塩の結晶として精製されたものの化学組成は---------------
Penicillin I (F) =C14H20O4N2S
Penicillin II (G)= C16H18O4N2S
Penicillin III(X) =C16H18O5N2S
Penicillin IV(K)= C16H26O4N2S

原子量 C=12, H=1, O=16, N=14, S=32なので,その分子量は----------------

Penicillin I (F) =12x14+1x20+16x4+14x2+32=312
Penicillin II (G) =12x16+1x18+16x4+14x2+32=334
Penicillin III (X) =12x16+1x18+16x5+14x2+32=350
Penicillin IV(K) =12x16+1x26+16x4+14x2+32=342

基本骨格は 6-amino-penicillanic acid で,そこには炭素原子3個と
窒素原子1個が連結したベーターラクタム環構造をとり,その側鎖の
分子のわずかの違いがあるだけです。ベーターラクタム環のあること
の最終証明は,その後のX線結晶分析で解決しました。

参考) Ernst Chain: The chemical structure of the penicillins,Nobel Lecture, March 20, 1946.
                →http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1945/chain-lecture.html



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